先日ネットで注文した「バックハウス:最後の演奏会」のCDがやっと届いたので、しばしの間、感傷に浸りました。
このCDは、1969年6月26、28日にオーストリアのオシアッハで催されたヴィルヘルム・バックハウスのコンサートの模様を収めたものです。
2日目のコンサートは(2枚目)、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第18番の第3楽章を弾いている最中に心臓発作を起こし、第3楽章を弾き終えると「少し休ませてください」と聴衆に告げ、一旦楽屋に下がります。その後、医師団の忠告を退けステージに戻ってきたバックハウスは、予定していたプログラムを一部変更して前半のプログラムを終了します。
休憩後、後半は「バックハウス先生よりシューベルトの即興曲を以って今晩の演奏を終わらせて頂きたいとのご希望がありました」というアナウンスの後、「即興曲 作品142-2」を演奏してコンサートを終了します。そして、直ちに病院に担ぎ込まれましたが病状は回復することなく、一週間後の7月5日、85歳の生涯を閉じました。
バックハウスの録音は数多くあり、ベートーヴェンのソナタは手本として僕も何度も聴きましたが、この録音は単なる記録という域を越えた、音楽とは一体何なのかを考えさせられる演奏です。それはまた、死を予見しながらも最後までピアノに向かった、彼からの告別のメッセージだったのかも知れません。