歌劇「グリエルモ・ラトクリフ」

『グリエルモ・ラトクリフ』「グリエルモ・ラトクリフ」は全4幕からなるマスカーニのオペラで、台本はハイネの悲劇「ウィリアム・ラトクリフ」が原作です。
今日、マスカーニと言えば「カヴァレリア・ルスティカーナ」がとても有名ですが、1888年当時、ローマの楽譜出版社ソンツォーニョ社の歌劇コンクールに「グリエルモ・ラトクリフ」で応募しようとしたところ、一幕物でなければならないと言うコンクールの要件を満たさなかった事から応募を断念。結果として、コンクールの為に新たに書き上げた「カヴァレリア・ルスティカーナ」で応募したところ圧倒的な支持を得て優勝、驚異的な成功を収めるに至りました。しかし、この「カヴァレリア・ルスティカーナ」の成功ゆえに他の作品が脚光を浴びる機会があまりないのも確か。それに加えて、「グリエルモ・ラトクリフ」のタイトル・ロールはドラマチック・テノールを必要とし、今日では上演が非常に困難な作品の1つなんです。因みに、「カヴァレリア・ルスティカーナ」の後、「友人フリッツ」(1891年)、「ランツァウ」(1892年)と相次いで発表後、手直しを加えて1895年2月ミラノ・スカラ座でやっと初演を迎えた「グリエルモ・ラトクリフ」でタイトル・ロールを歌ったジョヴァンニ・バッティスタ・デ・ネグリは、オテロやタンホイザーを最も得意としたテノールでした。

このCDは1963年7月ローマでのライヴ録音です。元々はイタリアのレーベルFonit Cetraから発売された3枚組みのLPだったようですが、その後、数度に亘って複数レーベルによりCD化されています。写真のCDは2003年に発売されたリブレット無しの廉価版。でも、リブレットはネットでも入手可能なので特に問題はないですけどね。
そして、実はここからが本題!タイトル・ロールを歌っているのは僕のイタリア時代の師でもある、ピエール・ミランダ・フェッラーロです。
師はオテロ、ラダメス(アイーダ)、アルヴァーロ(運命の力)、エンツォ(ジョコンダ)、マンリーコ(トロヴァトーレ)、サンソン等を得意とし、特にオテロは300回以上歌ったと言う正真正銘のドラマチック・テノールなんですよ。ある時、その師に不躾にも「一番難しかった役は何ですか?」と質問した時に返ってきた答えが、この「グリエルモ・ラトクリフ」でした。この役は劇的表現を要求される事は言うまでもなく、これでもかと言うほど高音が出てくるし、野太い低音も必要な本当に大変な役なんですよ。でも、師の歌は素晴らしい。スケールが違います。第2幕終盤の10分にも及ぶアリアはカッコ良過ぎて思わず涙が出てしまいました。今は亡き師の歌声をいつまでも聴ける事に感謝してやみません。

序ですが、ロバート・デ・ニーロ主演、マーティン・スコルセーゼ監督の「レイジング・ブル」(1980年)の中で、第3幕の間奏曲が使われています。

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