カルロ・フランチはオペラの黄金期を支えた偉大な指揮者の1人です。ミラノ・スカラ座、ローマ歌劇場を始め、ヴェネツィア・フェニーチェ座、ウィーン国立歌劇場、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場等に於ける数多くの功績は、今更僕が言うまでもないと思います。
だから今シーズンのプログラム中、シャブリエの歌劇「いやいやながらの王様」に彼の名前を見た時は、はっきり言って我が目を疑いました。個人的には4年前の公演の際、レコーディングまでしながらCD化されなかった中途半端な出来に不満を感じていた上、再演と言う事で特に新しい発見がある訳でもなく、他に興味をそそられる要因もなかったので、彼の存在はとても大きかったのです。また、彼ほどの指揮者が、公演まで数週間足らずの稽古しかないのによく承諾したものだと驚きましたが、そこには再演だから全員熟知してるだろうと言う、彼なりの出演者に対する信頼や敬意の表れもあっての事だったのではないかと思います。
僕が彼と初めて仕事をしたのは丁度20年前。今回は稽古が始まって間もない初めの頃、挨拶に伺い昔共演した時の話で打ち解けましたが、僕にとっては時と場所を越えて再会出来た喜びもまた一入でした。
いざ稽古が始まってみると、彼の作り出す音楽は期待通りのものでした。オーケストラの楽員達の評判も良く、テンポの緩急、音の強弱、要所要所のニュアンス、また、歌とのバランスに至るまで実に良い響きで、これが4年前と同じ曲なのかと驚いたほどです。しかし、そんなオーケストラに引き換え、舞台上では演出の過度な動きも手伝って、彼の要求に応えられない、テンポについて来れない等、すぐには解決出来ない問題がありました。
そんな状況が続いた所為か、一昨日H.P.が行われた夜、僕は彼がG.P.にいないと言う夢を見てしまいました。昼間は「はかなき人生」の稽古があったのでそんな事も一旦は忘れていたのですが、夕方オペラ座に着いて劇場側の決断を知った時は愕然としました。こんな夢がまさか現実の事になろうとは、何とも嫌なものです。彼の要求する音楽は、リヨンのオペラ座では決して万人に受け入れられるものではなかった様です。レベルが違うと言ってしまえばそれまでですけど、勿論、オペラは総合芸術である事は確かですけど、「先ず音楽有りき」と言う常識は、ここでは受け入れられなかったのでしょう。
オペラ座のサイトには健康上の理由で降板を余儀なくされたと言う旨の説明がありますが、一昨日までの状況を知る限り、それ以外の理由もあった事は否めません。昨夜のG.P.からアシスタントが代わりに指揮をする事になりましたが、もはやマエストロが頑固なまでにこだわって作ろうとした音楽とはまるで別なものでした。
残念ながら僕の彼に関する資料は手元になく全部日本に置いてあるので、上の写真はネット検索して見つけてきた物ですが、僕のよく知っている彼もこの頃に近いです。もう80歳を越えるご高齢ですが、音楽に対する信念は衰えません。
最後まで自分の音楽を貫き通そうとして去らざるを得なくなったマエストロに、僕は心から敬意を表します。
本当に残念です。 彼の指揮する舞台を見たかった・・・。
tanupanさん、こんばんは。
> 本当に残念です。 彼の指揮する舞台を見たかった・・・。
同感です。
初日の出来はそれはそれは…orz