ベッリーニ:歌劇「カプレーティ家とモンテッキ家」

ベッリーニ:歌劇「カプレーティ家とモンテッキ家」ヴィンチェンツォ・ベッリーニの歌劇「カプレーティ家とモンテッキ家」の台本は、1825年に初演されたニコラ・ヴァッカイの歌劇「ジュリエッタとロメオ」の為にフェリーチェ・ロマーニが書いた台本を再利用したものです。基になっているのは1529年にヴィチェンツァのルイジ・ダ・ポルトが発表した物語にマッテオ・バンデッロが手を加えて発表した物語集です。
因みに、ウィリアム・シェイクスピアの戯曲「ロミオとジュリエッタ」は、このバンデッロの物語集の仏語訳からアーサー・ブルックが翻案した「ロミウスとジュリエットの悲しい物語」(1562年)が主な題材となっているようです。
さて、ベッリーニの「カプレーティ~」の話に戻りますが、1830年3月11日にヴェネツィアのフェニーチェ劇場での初演されたこの作品には、前作の歌劇「ザイーラ」の旋律が所々に挿入されています。こう言った自作を再利用する「自己盗作」 “auto-plagio” という行為はロッシーニ等の同時代の作曲家には多く見られるのですが、ベッリーニはこれを嫌いました。しかし、ベッリーニ自身が会心の出来と信じた前作の「ザイーラ」が一部の限られた成功のみに留まってしまったという出来事が、、敢えて彼にそうさせてしまったのかもしれません。何とかして「ザイーラ」の旋律の素晴らしさをより多くの人に受け入れて欲しいという彼の願いだったのでしょう。
こうして初演時には大好評を博した「カプレーティ家とモンテッキ家」ですが、1832年頃から当時の名メゾ・ソプラノであるマリア・マリブランがベッリーニのフィナーレに繋げてヴァッカイの「ジュリエッタとロメオ」のフィナーレを続けて上演したことがきっかけとなり、19世紀中頃までこれが慣例的に演奏される事になります(エヴァ・メイとヴェセリーナ・カサローヴァが主役を歌っているロベルト・アッバード盤の「カプレーティ~」にボーナス・トラックとして収録)。

1966年には、ロメオ役をオリジナルのメゾ・ソプラノではなくテノールに割り当て、また、女声合唱を大幅に加える等の改変をクラウディオ・アッバードが行い、自らが指揮をしてミラノ・スカラ座で、レナータ・スコット(ジュリエッタ)、ジャコモ・アラガル(ロメオ)、ルチアーノ・パヴァロッティ(テバルド)等によって上演されました。また同年、アムステルダムで開催されたオランダ・フェスティヴァルでも同じくアッバードの指揮により、ハーグ・レジデンティ管&ボローニャ市立歌劇場合唱団、マルゲリータ・リナルディ(ジュリエッタ)、ジャコモ・アラガル、ルチアーノ・パヴァロッティ等によって上演されました(写真のCD)。スカラ座公演の録音は残念ながら所々が欠損しているのですが、それでもスコットの素晴らしい歌唱、そして、まだデビューして間もない若々しいパヴァロッティの声を聴くことが出来ます。一方、アムステルダム公演は欠損部分もなくアッバード版の完全録音となっており、オリジナルとの違いを知る上でもとても参考になります。
また、僕自身がテノールだからなのか、ロメオ役に適したメゾ・ソプラノがあまりいないからなのかは分からないんですけど、ロメオ役をテノールに置き換えたアッバード版はとてもシックリ行くんです。それは恐らく弱冠27歳のアラガルの歌唱にも寄るところが多いのかも知れません。ロメオにしてもジュリエッタにしてもまだ年端も行かない青少年ですからね。女声が男役を演ずる、所謂「ズボン役」では視覚的にもどうしても違和感を感じてしまうのです。

1985年にリッカルド・ムーティ指揮により、エディタ・グルベローヴァ(ジュリエッタ)、アグネス・バルツァ(ロメオ)等が歌ったロンドンのコヴェント・ガーデン王立歌劇場に於ける録音は、数ある録音の中でベッリーニのスタイルに最も近い演奏と言われ、非常に高い評価を受けています。確かにムーティの音楽はきびきびとしていて、ごく一部分を除けば完璧な演奏と言って良いでしょう。しかしながら、個人的にはバルツァの歌唱が少々残念でなりません。同役を同じ年、ウィーン国立歌劇場で歌った時の方が何倍も良いと感じたので尚更です。

ここ数年、コヴェント・ガーデン王立歌劇場やパリ・オペラ座、ミュンヘンのバイエルン国立歌劇場等で「カプレーティ~」の公演があり、それらの録音や映像を観聴きする機会がありましたが、如何せん、何れも僕の好みに合うものではありませんでした。また、アンナ・ネトレプコとエリーナ・ガランチャが主役を歌っている一番新しい録音も、音(ムジクフェラインの音響)は綺麗だとは思いますが、演奏の方は期待外れでした。オケがウィーン・フィルじゃなかったら絶対に聴かなかったかもしれません。
ベッリーニは正真正銘100%ベル・カント。同じベル・カントでもロッシーニやドニゼッティとは声も歌い方も、要求されるテクニックも違います。勿論、歌だけでなくオーケストラもかなり重要な役割を担っているのです。単なる伴奏に終わって欲しくはないのです。それをどう導くかは良くも悪くも指揮者の腕に掛かっているんですけどね。

明晩はリヨンのオペラ座に於いて、ベッリーニの歌劇「カプレーティ家とモンテッキ家」の公演が演奏会形式で行われます。ロメオ役を歌うのはアンナ・カテリーナ・アントナッチですが、昨日のG.P.まで、まだ一度も本気で歌っていないので、一体どういうロメオを聴かせてくれるのか少し興味があります。

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